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オンラインゲーム『テイルズウィーバー』の創作小説を書いていきたいと思います。 たぶん分かる人にしかわからないと思うんで テイルズウィーバーってなぁにぃ?たべものぉ? って人は戻った方がいいと思います。
いつかきっと小説②
2008-09-17 Wed 14:10
注意
いつかきっとの皆さんと同じ名前のキャラクターが出てきますが、たぶん実在の人物とか団体とかそこらへんもろもろとは関係が無いと思われます
そして相変わらず文章が下手です。気分を害したくない方は回れ右
後悔しない!と思える方だけ下にどうぞ































この世界にはほぼ毎日来ている
自分の分身が動き回る世界
文明はあまり発達していないけれど、魔法と剣が交わる世界
こんな世界で自分は片手なのにありえない速さでぶっとい剣を六回連続で振ったり気合だけで風の狼を飛ばしたりシソを食べるだけで復活したりと割と好き勝手やっている
そう、ここは現実とは次元の違う世界
「・・・っと・・・」
ぐらりと視界が揺れた
否、明るくなったのだ
黒一色だった辺りが鮮やかに染まっていく
トン、と足が地についた感触がした
「あ、あけっち」
「みょーん」
と、来て早々見知った・・・いや、ここでは言い換えることにしよう。
よく聞いた彼ら・・・彼女ら?の声が聞こえた
「・・・こんばんは」
動けるようになった自分はとりあえず挨拶を返す
ちなみにみょんと言うのは自分のあだ名だ。呼ばれている理由は省略、と言うか話したくない
「うん、こんばんはあけっち」
挨拶を真っ先に返してきたのは我がクラブのマスターだった
もう説明イラナイだろうけど一応紹介、ドSで東方電波曲的な意味でネタに走りつつあるリスティナ、以上
「なんか今無性にあけっちにむかついたんだけど」
「気のせいですよ、自分がマスターを適当に紹介する分けないじゃないですか」
「あけっちならしそうだけどねー、何の事言ってるのかさっぱりだけど」
と、言ったのはキスティだ、こっちは説明必要でしょう。形的に新クラメンで東方プレイヤーな放置民、以上
「あれ?なんか私も無性に腹が立ったんだけど」
「気のせいです、大丈夫です、リスさんと同じくらい丁寧に紹介しましたから」
「だからその紹介って何?」
と、質問したのはこすらだ。やっぱりSで暇つぶしのプロだけどやっぱり放置民、いj
「メテオ」
説明が終わる前にぼそりとこすらさんが呟いた。どぉん!と大きな音がする
「うあじゃじゃじゃじじゃじゃじゃじゃっ!」
自分は奇声を上げてのた打ち回ろうとするが、実際は手足をばたつかせてるだけである
背中には燃え盛る隕石が遠慮なく乗っかっている。
ここで死なないのがTWクオリティ
「あじゃいじゃじゃいじゃじゃじゃじゃっっ!!」
まぁ気絶するまでが痛いですが
「あけっち、あんまり酷い事はやめようね?手抜きも止めようね?」
「それは自分の台詞ですーーーっ!何で手抜きって分かったんですかぁぁぁ!?」
彼女らにとって割と普通なこの光景で、自分達のこの世界での一日は、また始る



ライディアの古びた家にて
「でさー、あけっち」
「?」
彼の呼ぶ声に自分はクエスチョンマークだけを浮かべる。
いや、先ほどのメテオで背中が見せられない状況で喋るのもままならないので、とりあえずクエスチョンマークだけは返せたと言うべきだろうか
彼・・・自称罪袋だが比較的穏やかな人、浩二は退屈そうに座っている
「暇だね」
やっぱり暇みたいだ
「・・・ですねぇ・・・」
自分は適当に返しておく。今はそれどころじゃない
「うちらみたいに狩ればいいじゃん」
と、至極真っ当な事を言ったのは何故か明智を乙女にしたがるリスティナの知り合い、桐渡だ。
確かに彼女の言うとおりこの世界の目的と言えばまずは経験を積むことだ。
だが・・・
「男には・・・譲れない事があるんです!」
「それで何ヶ月もそのレベルのですか?それじゃ駄目だと思うんですよネ・・・」
反論できない正論で責めてきたのは地味に怖い腹黒で大酒呑みのやだもんだ。
やださんは言ったついで、とでも言うようにヒールで自分の傷を癒してくれた
出来ればもうちょっと早くやってほしかったがこの際文句は言えない。嗚呼無傷って素晴らしい
そしてやることを終えた彼女はまた、そうまた、杯を傾けている
いつもの光景なのであまり突っ込む気にもなれないが、酒ってそんなに美味しいのだろうか?
「そうですよ~。明智さんも一緒に狩りましょう?」
と、ゆったりと言う彼女は明智が姉御と呼ぶいつかきっとの良心、小梅である。彼女の存在にはいつも癒される。ドに超がつくほどのSの巣窟であるクラブいつかきっとには珍しい存在だ
そして
「ま、あけっちだし、もうこれにも慣れたけどね」
「でもあけっち最近ランジエの方で気合入れてきたよなぁ」
慣れた、と言ったのは姉さんがちょっと有名なとまと
そして気合云々と言っているのは変態尻レックスである
まぁ二人ともSと言うわけでもない。いつかきっとではそういう人間はSの標的になるのだが・・・彼らについては、何も言うまい。今はまだ大丈夫かな?
・・・ふぅ
なんか最後の方かなり適当だけど、紹介終了
「「凄くぞんざいに扱われた気がする」」
気のせいです。皆さん声を合わせて言わないで下さい
「で?あけっちが呼んだから仕方なく来てあげたんだけど、用って何?」
と、思い出したようにリスティナが面倒くさそうに言った。
なんだか下らない用だったら容赦しないと言われてる気もするが・・・きっと気のせいだろう。気のせいだと思おう
「あぁ、いやね、前に某ピンク色の悪魔に幻想郷に連れてって下さいお願いします明智様!って懇願されたもので」
「メt」
「ごめんなさいすいません許してくださいマジ勘弁してくださいこすら様」
奥義スライディング土下座をしたらこすらが不本意そうに杖を引いた。
プライド?メンツ?たぶんそれはいつかに入ると無意味なものになるんですよ。自分はとうに犬に食わせました
「で、続きは何かナ?」
と、やだもんが急かす様に聞いてきた。いいから早く話せと言われてる気がするのもきっと自分の気のせいだろう。うん。気のせいであってくれ
「で、ですね・・・皆さんに聞きたいんですけど、ドラえもんって見たことあります?」
「あぁ、それがどうかしたの?」
「自分は見たこと無いんですよ」
「それが言いたかっただけとか言ったら尻に襲わせるよ」
「えー俺あけっちやだ」
「話の腰を折らないで下さいよ!」
「「折ったのはお前だ!」」
あれ?そうだったっけ?
「で、みょん。ドラえもんがどうかした?」
「ふふふ、とまとさん。そんなに先が聞きたいですか?」
「下らない事言ってるとうちは狩りに行くよ」
「あ、うちも行くー」
「待ってくださいお願いします最後まで聞いてください」
自分が懇願すると皆こちらを一瞥してはぁ、とため息を吐いた。これ以上ふざけると命に関わりそうだ
「ドラえもんって、道具使うときに道具の名前を言うんですよね?」
小梅があれ?と言う顔をした
「明智さん、それって道具を出した時に言うんじゃ・・・」
だが自分はそのまま用意していた言葉を言う
「とおりぬけふーぷ~」
「あけっちそれは流石にまずいんじゃないの?」
と、キスティが言うと同時、自分以外のここにいる面々の足元にぽっかりと穴が開いた
それは地の底ではなく何やら見たくも無い異次元に繋がっているようで
「「あけっち!?」」
と、全員が驚きの声を上げてその穴の中に吸い込まれた
ひゅぅん、と音を立てて穴が塞がる
「やった!皆さんのあの驚いた表情!いやぁなんだか下克上出来たって感じで良いですねぇ!ざまぁみろい!幻想郷で妖怪にでもあってギッタンギタンにされるが良い!」
ひゃっほう、と右手を振り上げ自分はジャンプした。その優越感に浸りながら、コートの中から本を出す
「さーって、静かになったことですし座って本でも読んでましょうかねぇ」
と、自分は胡坐をかいて地面に座り更にコートの中をまさぐってあることに気づいた
「しまった・・・甘いものが無い・・・買ってこなきゃ」
自分は一旦本を閉じてコートに仕舞い、よっこいせと立ち上がった
「やっぱトッポかなぁ・・・アイスでもいいけどなぁ・・・溶けて本に落ちたら困るし・・・やっぱりトッポだなぁ、高いけどガーナのがいいなぁ」
と、呟きながら古びた家の古びた扉の古びたノブに手をかけ、捻る
そのまま扉を引いて
「ん?」
外の光景に違和感を覚えた
見慣れた木の町の光景ではなく、妙にグネグネと捻じ曲がった光景が見える
先ほどいつかの面々の足元に開いた穴の中の光景に似てて・・・
後ろの方から女の艶っぽいが間延びした声でどこでもどあ~、と言ったのが聞こえた
「・・・あれぇ?」
引きつった笑顔のまま、自分は隙間の中に吸い込まれた


―――いつかきっとの幻想郷スキマツアーはこうして始った



「いたっ!」
と自分は落下して尻餅をつく
そして頭を振って
「やべ・・・吐きそう」
とすぐに仰向けに寝転がった。自分は三半規管が弱い。自慢じゃないが自家用車で下を向くだけで酔える。飛行機だろうが船だろうが電車だろうがバスだろうが、それはもう簡単に
しばらく深呼吸をして、吐き気がおさまったところで起き上がり周りを見る
おどろおどろしい森の中、いかにも何かが出てきそうな魔法の森の中に、自分はいた
「やばいですねぇ・・・来ちゃいましたよ幻想郷・・・」
ふぅ、と自分は息を吐く
元々こんなつもりじゃなかったのに、と小さく呟いた
とりあえず
生き残るためにも幻想郷を案内できるガイド兼ボディーガードを手に入れなければ
だがそんな都合のいい存在が・・・
「・・・そうだ、あいつがいる」
と、自分はガイドとしてふさわしい人物を一人、思い浮かべる。
そいつを呼ぶ方法もすぐに思い浮かんだ。とりあえず叫ぶことだ
だがこの魔法の森に彼らがいるかどうかは分からない。
叫んでみれば分かるだろうか。
だが叫べば妖怪も妖精も自分の存在に気づくだろう。危険を自分で引き寄せるようなものだ
それに彼らがいてもこの呼び方だと殺されるかもしれない。リスクが高い
でも、ほかに方法は無いわけだし
「・・・分の悪い賭けは嫌いじゃない!」
自分の声が空しく響いた。
止めよう、さっさと行動しよう
立ち上がった自分は大声で叫んだ
「峰崎花蓮はーーーばーかなーやつー!」
バササ、と森から鳥が飛んだ、少し怖い
叫んだ後、少しの沈黙があった
「・・・あれ?ここにいないですかね?桜は?」
と、呟くと同時、森の中から現れた何かが自分に何かを振り下ろした
ガゴン!と嫌な音がした
「おふぅっ!」
自分はそのまま倒れる、頭から血が流れている感触がする。モウヤダ
ぐらぐらとゆれる頭の中に
「てめぇ、ぶっ殺す」
「ま、待った桜!殺すのは駄目ぇ!」
自分を見下ろすような声が聞こえた、自分の目的は達成できたようだ
頭から血をだらだら流しながら起き上がる
「・・・すいません、今の言葉は撤回します」
「うわ怖っ!」
「怖い!怖いよ桜!」
散々な言われようだ。自分はコートの袖で顔をぬぐった。
すぐに血が止まったのが奇怪だったのか。男はさらに変な顔をする。が、とりあえず放っておいた
「えっと・・・確認する必要も無いと思いますが、貴方達は桜に峰崎花蓮であってますね?」
二人は・・・いいや、一人は首をかしげる
「こいつ知ってる?」
男は肩の上の人魂のようなものに声をかけた
人魂のようなものから返答がくる
「ううん、全然」
「すいません、説明してる時間が無いと言うか説明面倒なんで端折りますけど、まぁ自分は貴方達を知ってます」
「ふぅん」
男は・・・桜はつまらなそうに納得した。そういう奴なのだ、こいつは
「君、名前は?」
人魂・・・花蓮が聞いてきた
「あけ・・・桜花です。桐生桜花」
「変な名前だな」
「聞くなりそれですか」
よっこいしょ、と自分は立ち上がる
そこでふと思い出した
「あ、皆さんには説明必要ですよね。こちら自作東方外伝の主人公の桜と峰崎花蓮、オリジナルキャラクターです。元々は雪合戦の実況用キャラでオリジナルなのをいいことに腋巫女だの⑨だの叫ばせようとしてたんですが・・・まぁいろいろあってこういう出演になりました、よろしく。特徴としては一つの体に二人分の魂が入ってるって感じですね。表に出てる人格に体は変わりますが表に出てない方は基本的に人魂から会話します」
「お前はどこに向かって何を言っているんだ」
と、桜がすごく怪しい奴と言いたげな表情で見てきた。その気持ちは分かるけど、分かるけど止めてほしい
「で、面倒だから単刀直入に言いますが、幻想郷に外来人の知り合いが多数迷い込んだので幻想郷案内してください桜」
何の脈絡も無く唐突に自分は言った
すると、ついていけない、と言うように桜が頭を抱えた
そりゃそうだろう
「・・・どうなってんだ」
「私もわかんない・・・けど桜、とりあえず案内しようよ。外来人がいるって言うのはほっとけないし」
「・・・ま、花蓮がこういってるし、手伝ってやろう。全然話が見えないが」
よし、とうなずく自分。ガイドゲット
「で、これからどうするんだ?桜花」
「とりあえず、皆さんが妖怪の山やら紅魔館やら幻想郷の主要な場所にいると思うので・・・探しに行きましょう」
「探した後は?連れて帰るの?」
「いいえ・・・桜、近々宴会をやる予定は?」
「ん?明日結構な人数集めて博霊神社で宴会をやるが」
「そこで良いです。そこに皆さんを集めましょう。まぁ・・・皆さんのことですし自分がいちいち言わなくとも勝手に宴会に出そうですが・・・ね」
はぁ、と嘆息する。本当は自分はこっちに来る予定じゃなかったのに。
あのスキマが案内やらを担当する手はずだったのだが・・・スキマの事だ。面倒になったのだろう。だから自分を桜が近くにいるここに落としたのだろう
「嫌になります・・・本当」
「それは俺の台詞だ馬鹿野郎」
桜が返す。もっともだが頷いてもいられない
自分は桜を急かした
「とりあえず・・・近いところから行きましょう。近いところから」



「あたたた・・・」
と、女性の声が聞こえた
滅多に人が足を踏み入れることの無いこの山
そこにある神社の前で女性が尻餅ついたポーズで呟いていた
女性は痛みが引くのを待ってから、立ち上がった
そのまま転がっていた杖を拾い、辺りを見回す
「えっと・・・ここはどこでしょう?確か明智さんが変なことをしたんですよネ?」
彼女・・・やだもんはゆっくりと状況を整理していた
そして疲れたように嘆息する
「全く・・・明智さんも本当困ったものですネ・・・。多分話の流れからここは幻想郷ってところなんでしょうけど・・・」
彼女は自信なさげに呟いてもう一度辺りを見回した
目の前には山の中にある何処か不自然な神社
それ以外には木が生い茂っているだけで、目ぼしい物は何も無い
彼女は東方についてはあまり知らなかった。精々明智やこすら、キスティやレックスが話しているのを聞いたことがあるだけだ
だから周りの光景を見て、ここが東風谷早苗達のいる神社だと、連想することができなかった
とりあえず彼女は呆然と立ち尽くす
「・・・どうすれば良いんでしょうか・・・?」
まぁ、そうなるだろう
すると神社から人が出てくるのが見えた
彼女は少し考え、その人影に声をかける事にした
その人影は白と青の巫女服を着ていた、頭にはデフォルメカエルの髪飾りがある。緑色の髪は左側で一部縛られていた
箒を持った人影はこちらに気づいてはいない
別段気づかれないようにと考えた訳ではないのに、その人影は最後までやだもんの気配に気づかなかった
「あの」
「ひゃぁ!」
やだもんが声をかけると跳ね上がるように巫女服の彼女は驚いた
びっくりした表情で振り向く
「あ、ああああの、どちら様でしょうか!?」
やだもんは最初この人は対人恐怖症なのだろうか、と思った
「えっと・・・お聞きしたいんですけれども、ここはどこでしょうか?」
やだもんが困ったように聞くと、巫女服の彼女は急に落ち着いた
「あぁ、迷い込んだ方ですね。ここは妖怪の山の中の神社です。・・・ってあれ?天狗が見張ってるはずですし迷い込むなんて・・・?」
巫女服の彼女は自分で言った事を不思議に思い考え込む
やだもんは対人恐怖症というイメージを取り去ったが、その代わりに変な人と言うイメージを新たに持った
「あの・・・」
「あ、ご、御免なさい。ちょっと考え込んじゃって」
「別に良いんですけどネ。とりあえずライディアにはどうやって帰ればいいんでしょうか?」
だめもとでやだもんは聞いてみた
すると巫女服の彼女は首を傾げる
「ライディア・・・?」
案の定のようだ。やだもんはなんでもないと言おうとする
だがその前に、巫女服の彼女が納得したように頷いた
「そっかぁ・・・貴方、外来人ですね?幻想郷の外から来た人」
「えっと・・・多分そうなりますネ」
自信なさげにやだもんが答えると、そっかぁと早苗が理解したように呟く
「じゃぁ、こんなところで立ち話もなんですし、とりあえず中に入ってください。お茶くらいならお出しできますから」
「じゃあ・・・お邪魔させてもらいます」
他に頼るところも無いので、とりあえずやだもんはその言葉に甘えた
早苗は箒を一旦賽銭箱に立てかける
そのまま踵を返し
「あ、忘れてました。私東風谷早苗です。」
振り返って胸に右手を当て、いまさら彼女は自己紹介してくる。やだもんは早苗のことを抜けた人、と思いながら
「やだもんです」
と簡単に自己紹介を返した



やだもんはちゃぶ台を前に一人正座していた
中に案内された彼女はとりあえずここで待つように言われていた
「今お茶を出しますから」
早苗はそう言って何処かに言ってしまった。一人だけ取り残されると何か居心地が悪い気がしなくも無い
やだもんはとりあえずくるりと部屋の中を見回した
なんの変哲も無い和室に、箪笥やらちゃぶ台やらが置いてある。良くある日本家屋の屋内だ
現代によくあるものではないのだが
やだもんはそのまま前を向いて
(これからどうしよう)
と、考え込んだ。
明智のやった事だからそんなに考え込む必要は無いのかもしれないが、しかしやったのは明智、何か失敗している可能性も否定できない
とりあえずここが何処かを確認して、多分飛ばされているであろういつかのメンバーにどうにか連絡を取って、帰る方法を探す
彼女の行動指針が決まった
「あら?お客さんかい?」
と、考えがまとまったところで左のほうから声がした
見てみると縁側に立っている女性がいた
紫色の髪の毛に乗せるように輪にした縄がある。赤い服の胸には丸い鏡のようなものがついていた
「えっと・・・そういうことになりますネ」
とりあえず誰かは分からないが返事をしておく
「そうかい。私は八坂神奈子、あんたは?」
「やだもんです」
自己紹介を済ませると、彼女は部屋の中に入ってきた。
ちゃぶ台をはさみやだもんと向かい合って座る
「とりあえず・・・あんた、酒は飲めるかい?」
いきなり何を聞くんだろう、と思いながら
「まぁ、多少は飲めますネ」
と、答えた。
明智でもいたら多少どころでなく人並み以上に飲めるでしょうが、とツッコミをいれそうだが、そのように言う奴はここにはいなかった
「そうかい、じゃぁ一杯付き合ってくれないか?諏訪子はなかなか一緒に飲んでくれないし早苗に至っては飲めないからね。一人で飲むのにも飽きてたんだ」
と、彼女はどこから出したのか大きな焼酎の瓶をどん!とちゃぶ台の上においた
二人分の猪口をどこからともなく取り出し、片方をやだもんに差し出す
歯で噛んで焼酎の栓を開け、栓を咥えたままとくとくとやだもんの猪口に酒を注いだ
「ほら、ぐいっといきな、ぐいっと」
そういいながら自分の分にも酒を注いでいる
初対面の客に昼間から酒を振舞うとは一体どの様な神経をしているのだろうか
やだもんは少しだけ躊躇して・・・それから覚悟を決めたようにと酒を一気に飲み干した
「おいしいですネ」
にっこりと笑って素直に感想を言う。
お、と神奈子が感心したように声を上げた
「結構強い酒なんだけどね。あんた結構いけるね。ほらどんどん飲みな」
とくとく、とやだもんの猪口にまた酒が注がれる
やだもんはぐぃ、とまたそれを飲み干した
負けないとでも言うように神奈子も猪口の中の酒を飲み干す
何度かそれを繰り返していると
「あ、あー!八坂様!またお酒を飲んで・・・その上お客さんにも飲ませて!」
お盆の上にお茶とお茶菓子を載せた早苗が大声を上げた
どうでもいいが、お茶を出すのがいやに遅かった。本当にどうでもいいが
「いいじゃないか。明日だって宴会なんだし、今飲もうが明日飲もうが同じだろう?」
「でも持っていく分のお酒はどうするんです?」
「・・・持ってかなくても他が持ってくるでしょ」
「八坂様!」
「良いから良いから、早苗、酌を頼むよ」
神奈子が猪口を掲げて言うと、早苗がしぶしぶと従った
お盆をちゃぶ台の上において、やだもんと神奈子に酌をする
「わざわざすいませんネ」
「いいえ、こちらこそすいません。お昼からお酒を飲まされて、迷惑じゃないですか?」
「全然、お酒もおいしいですしネ」
くい、とおいしそうに酒を呷る。酒の飲めない早苗はその様子を羨ましい様な良く分からないような、複雑な表情で見ていた
「何やってんのー?・・・うわ、神奈子が酒呑んでる」
「あぁ諏訪子、ちょうど良いところに来たね。あんたも飲んできな」
声がした、またやだもんはそちらを向く
今度は小さな女の子が立っていた
くりんとした目がついた特徴的な帽子。服にはカエルが描かれていて、それぞれが自由に舞っていた
諏訪子と呼ばれた彼女はやだもんの方を見て
「あんたとは呑まないけど・・・お客さんと呑む」
と、てくてくと歩いてきてやだもんの隣にちょこんと座った。帽子を取って膝の上に乗せる
やだもんは右手で猪口を口まで運びながら、左手で隣の彼女の頭をなでた
諏訪子は一瞬気持ちよさそうにしてから、ハッ、と我に返り
「・・・言っとくけど、私は貴方よりずっとずっと年上だから」
と、むくれたように言って頬をカエルのようにぷぅ、と膨らませた
そんなかわいい動作を楽しみながら、やだもんは酒を呷る


―――三本ほどの瓶を三人で飲み干した頃合だ
「あの・・・そろそろやだもんさんの事について話したほうがいいと思うんですけど・・・」
今まで黙って三人に酌をしていた彼女が唐突に言ってきた
ん、と少し頬を染めた神奈子がうなずく
「ま、そうだね。あんた、どこから来たんだい?」
「えっと・・・ここの外みたいなんですけどネ」
「なるほどよく分かってないか・・・」
ぐい、と猪口の中身を飲み干し早苗に空になった猪口を差し出す
「ま、帰る目処が経つまでここにいてくれても良いよ」
「ほんとですか?」
「神奈子、その前に説明とかやることあるでしょ」
「いいのよ、今は酒を飲んでるの。面倒な話は抜き。」
諏訪子はむぅ、とうなって両手で猪口を持ち酒を飲み干した。早苗がまた注ぐ
「お願いしますネ」
やだもんも飲み干した猪口を差し出した
「はい」
と早苗は微笑んで酒を注ぐ

「――――――――」
「?なんか聞こえない?」
諏訪子が何かに気づいた、全員が首を傾げて静まる
確かに、何かが聞こえた
段々その音が近づいてくる
ヒュゥゥ、と言う風を切る音とともに
「―――ぉぉぉぉおらこんなのはー嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・」
何かが通った
本当に何かだった。縦長の何かが横になって外を通り抜けた
なにか言っていたようだが、うまく聞き取れなかった。ドップラー効果のせいで
しばし四人は呆然とする、ドォン!と重いものが地面に激突した音がした
と、違う人影が障子の影から顔を出した
「あぁ、こんなところにいたのか。・・・そして昼間から酒を飲んでるのか」
「あ、桜」
諏訪子が彼の名を呼ぶ。知り合い?とやだもんが首を傾げる
すると今度は知っている声が桜の逆方向から聞こえた
「桜ぁ!投げるなんて酷いじゃないですか!投げるときに『よし、いくぞう』なんて貴方が言うから変なこと口走ったじゃないですか!」
「知るか馬鹿」
と、明智がやだもんの方を向いた。二人の目が合う
「あ!やださん!」
「明智さんじゃないですか。会いたかったですヨ」
やだもんがにっこり笑いながら言う。少し酔って頬が染められているのがその笑顔をさらに良いものとしていた
彼女は立ち上がり、杖を持って近づいてくる
嬉しげに明智は両手を広げて彼女を迎えるポーズを取った
「やださん!自分もおぶぅっ!」
一瞬だった
やだもんが明智を吹き飛ばすのは
あまりにスイングが早くて見えなかった
早苗たち三人に加え桜も唖然とする
杖で横殴りにされた明智は吹っ飛んだ後砂埃を上げて地面に叩きつけられた
ゆっくりとやだもんが歩み寄り、彼の顔を覗き込むようにしゃがむ
「これは、どういうことかナ?」
笑っていた、確かに彼女は笑っていた
だが影も差していた。笑顔が黒いそれになる
倒れた明智の顔が青ざめる
「ま、待ってくださ・・・いだだだあえだい!杖!痛!それ以上されると何かに目覚めるーーーーっ!」
明智が叫ぶがやだもんは止めない。気の済むまで杖でぐりぐりした
「・・・で、あけっち。どういうことかな」
「うぐぅ・・・鯛焼き・・・」
「もう一発ほしいのかナ?」
「大丈夫です!明智はこの通り元気です!変形も合体も接着も出来ます!」
訳の分からないことを叫びながら明智が立ち上がる。
やだもんも立ち上がった。明智が変なのはいつもの事なので特に気にはしない
「で?もう一度聞くけど、今どうなってるの?」
「あぁ、簡単に言うと幻想郷ツアーを楽しんでもらおうかと思いましてね」
「ガイドも無しに?みんなばらばらで?それは素晴らしいですネ」
「怒らない下さい・・・自分にとっても不測の事態だったんですよ」
「え・・・?・・・一応聞きますけど、帰れるんですよネ?」
「あぁ、そこは抜かりなく。だから安心して楽しんでていいですよ」
やだもんは内心ほっとした。そこでふと後ろに四人ほど人がいたのを思い出した
振り返ってみると四人は硬直したまま動いていなかった。そんなにショッキングな光景を見たのだろうか?
やだもんが神奈子達の方へと戻る。明智も後ろに続いた
「・・・桜花、知り合いは見つかったか?」
「ええ桜、まず一人です」
こちら、やだもんさん、と明智が紹介する
桜は右手を差し出した
「桜だ、よろしく頼む」
「花蓮です。よろしくお願いします」
「やだもんです、よろしくお願いしますネ」
やだもんは彼の肩の上にある人魂がしゃべったことに少し驚きつつ右手を差し出した。二人は握手を交わす
「で、明智さん。これからどうするんですか?」
「んー、自分的には明日の宴会で皆さん集めようかと思ってるんですけどね。それまではやださんも自由行動で良いですよ」
「自由行動って言ったってネ・・・」
幻想郷のことなど何も分からないのに自由行動と言われても何をしていいのかも分からない
やだもんがそう思っていることを悟ったのか、諏訪子が口を開いた
「じゃぁさ、明日の宴会までここにいない?どうせ私達も宴会に行くし」
「いいんですか?」
「もちろん、外の話を肴に酒でも飲もうじゃないか」
神奈子が猪口を軽く振った。にやりと笑う
「じゃぁ・・・お言葉に甘えようかナ」
「よし、そうと決まれば桜。酒」
「お前なぁ・・・まぁやだもんに免じて、だな」
桜はちゃぶ台に近づき、空の瓶を持った
「補充、と。こっちも補充っと」
彼が補充と空の瓶を持って口走るたびに空だった瓶に酒が満たされていく
やだもんは驚きつつそれを見ていた
「はいはい、ありがと」
「はいはい、どういたしまして」
酒を見て言った神奈子に桜が疲れたように返した、早苗が猪口に今補充したばかりの酒を注いだ
「ほらやだもん、呑むよ」
「あ、はい。あけっちはこれからどうするんですか?」
「んー、彼女らと話したい気もしますが・・・とりあえず他の散らばったメンバーにも声をかけます。桜と一緒に」
「そっか。途中で死なないでネ」
「何で笑顔で言うんですか貴方は」
その黒い笑顔に見守られながら、桜と明智は踵を返した
「さぁ桜次行きますよ次!マッハGO!GO!GO!」
「古っ!」
二人はそのまま空に消えていく
はーっ、と蒼天を見上げてやだもんは息を吐く
「やだもんー早く呑もうよー」
諏訪子の急かす声が聞こえた
「はいナ」
やだもんが嬉しそうに神社の中へと引っ込んで行った



「うぅん・・・」
頭を抱えて起き上がった彼女は、明智から姉御と呼ばれている女性だった
霞む目をこすりながら起き上がり、周りを見回す
まだ、視界は霞んでいた
「?」
不思議に思って目をもう一度こすり、ぱちぱちと何回か瞬きしてからもう一度周りを見た
やはり霧のかかったような霞具合が変わらない
「あぅ~」
小梅は困ったように呟いた。実際困っているのだが
必死に記憶の糸を手繰り寄せてみる、確か明智が何かを言って落ちたところまでは記憶がある
そこでピンときた。ここが件の幻想郷なのだろうと
小梅はとりあえず立ち上がり周りを見た
そこで初めて二つの事実に気づく
一つは霧が深くかかっている事、もう一つは良く分からない花が多く咲いていることだ
こんな場所はあっちの世界で見たことが無かった。忍桜の里の墓所や黄泉路の雰囲気に似ている気がしないでもないが、見る限りここは似て非なる場所だ
「どこでしょう・・・ここ」
彼女はとりあえず歩いた
結構歩いた
しばらく歩いた
だいぶ歩いた
段々足が疲れてきた頃、集中力が欠けてきた頃
ぐに、と何かやわらかいものを踏んだ
「きゃ!」
バランスを崩して小梅がこける
「きゃん!」
踏んだときにそんな声が聞こえた
ぼさり、と花の上に倒れた小梅は顔を抑えながら立ち上がった
鼻の頭を赤くしながら振り向くと、踏まれて悶絶している人影があった
「む、胸踏まれた・・・」
と、豊満な胸を抱きながら悶絶する彼女の横には大きな鎌が立掛けてあった
処刑人・・・いいや、死神のそれに見える
怪しい人だと小梅は思うが、同時に悪い人ではなさそうだと直感する
彼女しか周りに人がいなかったと言うこともあって、小梅は悶絶する彼女に声をかけた
「あの・・・」
「ぐ・・・ちょっとまっとくれ・・・」
けほけほと咽る彼女の話し方は独特だった
もう少しだけのたうちまわり、痛みを振り切ってから彼女は立ち上がってこちらを向いた
小梅はそれを見上げて、自分も立ち上がる
「えっと、御免なさい」
「あぁ、気にしなくていいさ。ここで寝てたあたいも悪いからね」
そういった彼女は向かってみると結構背が高いことに気づいた
腰の徳利が小さく見えてしまう、よく見れば履いている下駄が少し高いようだが、それを差し引いても背が大きい事が見るだけで分かった
「それにしても・・・珍しいねぇ。こんなところに人間なんて」
「こんなところ?」
小梅はその言葉を確認するように辺りを見回す
濃い霧に無数に咲く不気味な花
こんなところと言う言い方は確かに間違っていないように思えた
「無縁塚。ここには人間どころか妖精、妖怪も滅多に来ないのさ。来るとすればそれは・・・」
そこで小町は間を置いた、置いてある鎌を拾い上げた
それを肩に担いで、もう一度小梅を見つめる
「幽霊くらいさ」
幽霊・・・確かにここは此の世在らざる場所に見える。
それは確かなのだが、小梅には彼女の調子が軽すぎるせいでその言葉が冗談以外の何にも聞こえなかった
「幽霊?」
「そう、別にめずらしか無いだろう?お前さんもこんなところに来る物好きなんだしね」
そういった彼女は近くにあった木にもたれ掛かり、座った
そのままちょいちょい、と前の方を・・・小梅の足元を指差す
座れ、と言うことなのだろう。小梅はおとなしく従った
「もしかしてお前さん・・・幽霊云々から不思議そうにしてるところからして、外来人じゃないかい?」
「外来人ですか?」
「そう、幻想郷の外から来た人のことだね」
「たぶんそうだと思います」
「なんだかはっきりしないねぇ・・・」
はぁ、と彼女はため息を吐いた
「えっと・・・貴方は誰なんですか?」
小梅が初めに問うべきことを聞いた
「あぁ、あたいは小野塚小町」
「もしかして、死神さんですか?」
言ってしまってから小梅はやってしまったと思う。大きな鎌に幽霊の話、それにこの場所もあって彼女が死神かとも思ったのだが、我ながら馬鹿げた発言だっただろうか?
しかし小町はうんとうなずいた
「まぁ、しがない船頭だけどね」
「そうなんですか。今は何をしていたんですか?」
「あぁ、仕事が一段落したからね。サボ・・・休憩中さ」
「へぇ~」
サボ、と言ったところで彼女が急に言葉を変えた気がしたのだが、小梅はさして気にしなかった
「ところで、あたいはお前さんの名前を聞いてないんだけどねぇ」
「あ、御免なさい。私は小梅です。よろしくお願いしますね」
「あぁ、よろしく。ところで今は休憩中だし、話でもしていかないかい?」
小梅はこくりと頷いた。
小町は腰の徳利を手に取り、どこからか出した猪口に並々と注ぐ
それをゆっくりと半分ほど呑んだ
そしてまた猪口に酒を注ぐ
「お前さんも一杯どうだい?」
「え?・・・じゃぁ、お言葉に甘えて」
と、小梅は猪口を受け取り、それをゆっくりと飲み干した
「・・・はふ」
「あはは、ちょっと強かったかい?結構強めの酒だからねぇ」
小梅は猪口を返した。小町がその猪口に酒を注ぐ
「でだね。あたいが船頭やってるってのは話したと思うんだけど、それがまた大変でねぇ・・・」
久々の話し相手を見つけた小町は嬉しそうに話し始めた



「――――でねぇ、四季様がねぇ・・・」
もう何十分話を聞いていただろうか。小梅は最初正座だったのだが、足が疲れることを予測して今は体育座りだった
「あたいも確かに仕事に対する・・・」
最初は楽しそうに話していた小町だが、段々それが愚痴の色を帯びてきて、今ではこの状況だ
小梅はそんな風に愚痴る彼女の話をしっかりと聞いていた。こくこくと頷きそうですねぇ、と相槌を返す
「四季様も人使いが荒くてねぇ」
「そんなになんですか?」
「あぁ、そうなんだよ」
ぐぃ、と小町は猪口の中の酒を一気に飲み干した
「あたいが仕事が一段落して休んでるときばかりに顔を出してねぇ」
それはサボってる貴方を叱りに来てるのでは?と思ったが、口には出さず頷く
「なんとなく間が悪いんだよねぇ。あたいも働いてるんだけどねぇ・・・ただちょっと休みが多いだけなのさ」
「そうですかぁ。四季様という人はどんな感じの人なのですか?」
「ん?あぁ、中々お堅い人でねぇ。あたいなんて顔を合わせたらまず聞くのは小言だしねぇ」
「小町、なにをしているのです?」
「そうそう、あたいが休んでるとこんな風に気配無く話しかけてきてね、それから小言が始まるのさ」
ははは、と笑い小町はまた猪口に注いだ酒を飲み干し
「はは・・・は・・・」
ぎこちない動きで振り返った。ツーテールが硬く揺れる
「小町、貴方全く反省していませんね」
「し、四季様!これはその」
四季と呼ばれた彼女は手に持っているしゃくの様なもので小町の頭をペシン、と叩いた
「きゃん!」
可愛らしい声をあげて小町が頭を抑えた
そのまま四季が小梅を見た
射抜かれるような視線に小梅は無意識に背筋を正す
「・・・貴方は外来人ですね」
「は、はい」
言葉がいつもより硬くなっていた。四季がそれを見透かしたように言う
「肩の力を抜きなさい。今は貴方を裁いている訳ではありません」
「はい・・・」
そう言われても緊張は解けなかった。彼女自体が持つ厳かな雰囲気のせいだろうか。
「あの、私は小梅と言います。貴方は・・・」
小梅が小町にしたように自己紹介をする。同時に彼女が誰なのかを聞こうとして
「ご存知、無いのですか!?」
またそこにいなかった者の声が聞こえた。視線が声の主に集まる
小梅の良く知った人間だった
「明智さん?」
「彼女こそ、花映塚ラスボスからチャンスをつかみ取り閻魔の肩書きを得た、超地獄裁判官、映姫ちゃんです!」
「ツミッ☆」
明智が言い終わるのにあわせて彼の横にいた女性がポーズを取る
「元ネタが分からなかった人はマ○ロスFを見てね!」
「ねぇ・・・なんだか私雰囲気に飲まれて変なこと言っちゃったんだけど・・・」
「気にするな花蓮。全部桜花のせいだ」
小梅の横、映姫と向き合うように明智と花蓮が立っていた
花蓮の肩の上の人魂から桜の声がする
不思議そうに小梅はそれを見ていた
「桜、また貴方ですか」
「また、はないだろ。それに今は花蓮だ」
疲れたように人魂がため息を吐く。花蓮はその横で映姫をじっと見つめていた
「姉御!助けにきやしたぜ!」
「ありがとうございます明智さん」
小梅が明智に例を言う。元々明智の招いた災いなのだが、彼女にとってその様なことはどうでも良いのかもしれない。良くも悪くも大らかな人だ
「それで花蓮、そこの少年を連れていったい何の用です?」
「は、はい閻魔様!この少年、桐生桜花の知り合いが幻想郷に迷い込んだとの事でしたので、捜索しておりました!」
ガチガチの敬語で花蓮が答える。映姫は小梅に顔を向ける
「迎えが来たようですね。ならば立ち去りなさい小梅。ここは人の来ても良い場所ではありません」
映姫の言葉に桜が気まずそうに返した
「あー、それなんだがな、映姫。知り合いってのはまだいてな。明日の宴会で全員合流することになってるんだ」
映姫が眉をひそめた
「何故その様な回りくどい真似をするのです?」
「そこの桜花に聞け」
「何故です?」
「趣味で」
映姫の表情が曇った。が、何を言うことも無かった
「宴会か・・・あたいも行きたいねぇ」
「宴会ですかぁ・・・お酒が沢山飲めそうです」
「小町さんもどうですか?小梅さんと一緒にいけばいいと思います」
「お、良いねぇ・・・でもあたいは」
小町が大量の彼岸花をぼんやりと見つめ、ため息を吐いた
「仕事、あるからねぇ・・・」
がくりと肩を下ろして落胆する小町が気の毒になった小梅は、映姫を見つめる
「あの、私は幻想郷にあまり詳しくないですし・・・」
「案内役ならそこの明智という少年や花蓮でも良いのではないですか?」
「すいません閻魔様、私たちはこれからまた桐生桜花の知り合い探しに行くので」
「連れて行くことは出来ないと・・・。確かに大勢で歩けば目立って無用な混乱を招きかねませんし、妖怪に襲われるリスクも増えることになりますからね」
映姫は手のしゃくの様なものを口元にあて、全員を一瞥する
「・・・小町」
「は、はい!」
「今日の日が落ちるまで仕事をしたならば、貴方に明日休暇を与えましょう」
「ほ、本当ですか!?」
「ただし、小梅を連れて行きなさい」
「はい!」
と、嬉しそうに小町が言う。ツーテールがぴょこぴょこと跳ねた
「と、言うわけでよろしく頼むよ。小梅」
「こちらこそよろしくお願いします。小町さん」
小町は大らかに笑い、小梅が深々と頭を下げた
「あの、小町さん。小梅さんの寝るところが無くて困ると思うので、夜になったら山に行ってみて下さい。そこの神社に小梅さんの知り合いもいるみたいですから」
「お、そうかい。じゃぁそうさせてもらうよ。花蓮」
それぞれの行き先が決まったところで、花蓮がでは、と頭を下げた
明智もそれに続く
「花蓮さん。次の場所に行く前にもう一度山に戻りましょう。いきなり死神が来ても驚くでしょうし」
「そうですね」
そう言って二人は飛んでいく
空に小さく残る人影を小町を小梅は眼で追った
その影が消えるまで
「さぁて、明日の宴会が楽しみだねぇ」
「それより小町。先にやるべき事があるでしょう?」
「そうだった・・・小梅、お前さんはそこら辺で時間でもつぶしとくれ」
「はい、分かりました」
小町が気だるそうに仕事に向かう。そんな彼女に小言を浴びせながら映姫も何処かへ行ってしまった
小梅は少し考えて、結局眠って時間をつぶすことにした


「ねぇ桜、気になったんですけど」
「なんだ桜花」
「四季映姫ヤマザナドゥの手の中に有ったしゃくみたいなの・・・あれって悔悟の棒ですか?それとも浄瑠璃の鏡?」
「ググれ」



リリーホワイトを捕まえた
それは何の自慢にもならない事だ
春の訪れを告げるために現れるその妖精は脳内麻薬全開といった感じでぼへぼへとしており、捕まえることなど容易いからだ
幻想郷についてまずこすらとキスティがやった事がそれだった
「やったぁ!リリーゲットだぜ!」
「うみゅぅ~」
「キスにゃ、なんかリリーが苦しんでるんだけど」
それも当たり前、リリーの上にこすらが乗って、その上にさらにキスティが乗っているのだ、重いのだろう
それに気づいたキスティはさっ、とどいた。こすらはリリーの手をちゃっかりつかみながら立ち上がる
リリーもこすらを支えにして立ち上がった
「うぅ~・・・」
リリーが涙目でこすらとキスティを見つめる
そのどうしようもなく可愛らしい仕草を見た彼女らは
「春ですよ~」
「春ですよー」
「春ですよーっ!」
いつもと全く変わらなかった。二人の言葉につられる様にリリーもその言葉を口に出す
とたんに機嫌が良くなったのか、リリーはこすらに抱きついた
「うわぁ!元気ねぇ」
「ところですら姫、これからどうしよう」
うーん、と三人・・・リリーまでもが腕を組んで考え込む
「紅魔館いこっか」
悩んだわりに出た答えはさっぱりとしたものだった
「そだね、行こうリリー」
「ふぇ?あ・・・」
こすらがリリーの手を引っ張る、眼を丸くしたリリーはされるがままだった
三人ががさがさと茂みを鳴らして森の奥へと消えていく
その反対側の茂みから、ガサガサと誰かが出てきた
「・・・・・・」
彼は沈黙して彼女らが入っていった茂みを見つめる
「おい!知り合いはいたのか?桜花!」
後ろから桜が追ってくる。明智は首を振った
「あの人たちなら・・・ほっといていいや」
「はぁ!?」
「さぁ桜、永遠亭に行きましょう」
おい!と止める桜の声も聞かず、明智が茂みの中に消えていった



「迷った」
「えぇ!?」
二人の女性の声が竹林に響く
高い竹が彼女らを見下ろし、風に揺らされ音を奏でていた
迷ったといった女性・・・リスティナはもう一度辺りを見回す
「うん、迷った」
大事なことなので二回言いました
「ちょ、どうすんの!?」
あせっている方の女性・・・桐渡はがっちりと両手でリスティナの右手を掴む
うーん、と唸った彼女は少しだけ考えて、頷いた
「いいや、このまままっすぐ行こう」
「その理由は!?」
「んー、まぁ普通だったら迷ったらその場から動かないけど、探してくれる人もいないしね。とりあえず歩いて集落とか人とか見つけた方が待つより安全だと思ったんだよね。砂漠みたいに歩くと命に関わるほど体力消耗するってわけでもないし」
「・・・なるほど」
ぽん、と桐渡は手を叩く。リスティナが先に歩を進めた
「しっかしあけっちめ・・・帰ったらどうしてくれようか」
「はー、あの乙女っちがこんな大胆なことするとはねぇ・・・」
「色々間違ってるんだけど、桐」
ん?と何が?とでも言いたげに桐渡がリスティナを見つめた。
はぁ、とリスティナが軽くため息を吐く
「話し振りからしてここは幻想郷なんだろうけど、私電波曲くらいしか知らないし、すらでも迎えに来ないかなぁ」
「私は東方については全然知らないからなぁ」
二人は会話を繰り返しながら竹林の中を歩いていく
すると
「そこの人間、ちょっと待って下さい」
後ろから声をかけられた、桐渡はビクッ!と跳ね上がってから、リスティナは少し眼を見開いてから振り向いた
見知った少女は長髪にウサ耳で・・・
「「ウドンゲ!!」」
二人が思い出したようにそう言うと、今度は鈴仙・優曇華院・イナバの方がビクッ、と跳ねた
一人と二人はしばらく無言で見つめあう
「・・・それで?どうしたの?」
沈黙を破ったのはリスティナだった
ハッ、と優曇華が我に返る
「えと、もしかして貴方たち、道に迷いました?」
コクコクコクコク、と桐渡が何度も頷いた
「やっぱり・・・それで」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
優曇華の言葉を切るように何者かの叫びが木霊した
「あけっち?」
「明智姫?」
二人は聞きなれた声の源を探すが、この拾い竹林のどこかは分からない
すると声の方から現れてきてくれた
何かに追われる様に走りながら
「あ!マスター!桐さん!」
「・・・覚悟は出来てる?」
「タンマ!今妖怪に襲われててそれどころじゃないんです!」
妖怪?と首を傾げると確かに奥で何かの影が走っている
乾いた銃声も聞こえてきた
「また妖怪・・・ここ一年間、低級な妖怪が増えたなぁ」
優曇華がはぁ、とため息を漏らす
その妖怪とやらの前に、銃声の主が現れた
「てめぇ桜花!お前も銃を持ってるんだったら戦え!」
銃声の主が叫ぶ、リスティナも桐渡も見たことの無い男だった
「わかりましたよ!」
と、やけっぱちになった明智は銃を構えて前に出て
「あけっち、前に出すぎ」
リスティナが冷静につっこんで
「あれじゃぁ・・・」
桐渡が先の自体を予想し
「あ」
パン、と桜が明智の右腕を打ち抜いた
「うぐ・・・馬鹿野郎!桜ぁ!だぁれを撃ってる!ふざけるなぁぁぁぁぁぁ!早くそいつらをコロセェ!ウテェ!」
「おお、あらぶる馬鹿のポーズであけっちが何か喚いている」
そんな小喜劇を繰り返している間も、妖怪達は近寄ってきていた
まずは一番近い明智に狙いを定める
「あ、あけっち危ない!」
「今助ける!」
リスティナと桐渡が同時に剣を抜いた
多数の敵が前方に固まるように群れ成している。それらは明智を目指して一直線に進んできている
やるべき事を決めた彼女らは剣を構えた
「カウンタースピア!」
「シルフランス!」
「え?ちょ!」
直線状に剣気の波動と風の狼が飛んでいく
それらは明智もろとも妖怪の群れをなぎ倒した
周りの竹は何も傷つけずに
桜が呆然とそれを見る
「凄いな・・・俺は桜って言うんだ、あんたらは?」
「うちはリスティナ」
「うちは桐渡でーっす!」
二人はそれぞれ桜と握手を交わす
一人蚊帳の外だった優曇華が、ハッ、と我を取り戻す
「あの、邪魔が入りましたが、話を進めたいんですけど」
「あーうん、なんだっけ?」
「貴方達が迷ったって事なら、この竹林から出しても良いですよって」
「本当?」
桐渡が眼を輝かせる
ただし、と優曇華が付け加えた
「てゐを探すのを手伝ってくれたなら」
てゐってあの?とリスティナがその姿を思い浮かべる
「知ってるの?」
「いやね・・・ちょっと」
「それなら話が早いけど一応説明すると、黒髪の妖怪ウサギのこと。てゐって。私よりもちっちゃい」
「へぇ・・・どうするのりすっち?」
「うちは別にいいけど」
二人は軽く承諾した、すると横の桜がため息を吐く
「お前・・・永淋の言いつけを赤の他人に手伝わせるのか」
うぐ、と優曇華が痛いところを疲れたというようにうつむいた
「言うの?」
「俺は言わんが・・・そこの二人には頼んでおけ」
「う・・・えっと、私にはお師匠様がいるんですけど、もしお師匠様に会ってもこの事は秘密に・・・」
優曇華が上目遣いで恐る恐る言ってくる、ぺたりと耳が垂れていた
「別にいいけど」
「うん」
「よかったぁ」
優曇華がほっと胸を撫で下ろす
「じゃぁ、探しましょうてゐを」
「待ったぁ!」
と、そこでぼろ雑巾のようになっていたはずの明智が待ったをかけた
面倒くさそうに四人が視線を向ける
「何ですかその眼は」
「別に、で何?あけっち。お仕置きが足りない?」
「違います!竹林から出る話ですが、そうじゃなくてマスターと桐さんを永遠亭に連れて行って欲しいんですけど」
「永遠亭に?」
優曇華があからさまに困った、と表情を変えた
「それは・・・」
「別にいいんじゃないか?人間二人連れて行くくらい」
桜が軽く言う。優曇華が少し考えて
「てゐを捕まえたら」
とりあえず、五人でてゐを探すことになった



てゐを見つけて永遠亭に行く途中だった、彼女が明智に尋ねたのは
「ねぇあけっち。もしかしてうちらの事心配してきてくれたの?」
「別に。さっきも言ったでしょう。宴会に集めるために来たって。貴方達なら心配する必要も何もないですし、大体自分が心配なぞしても意味は無いですし」
ふぅん・・・と二人はにやにやと笑いながら明智を見ている
「何ですかその眼は」
「べっつにー」
桐渡はそう言ってから、リスティナと揃って歌を口ずさんだ
「「ごめんねーすなーおじゃなくーて~♪」」
「どう言う意味ですかそれはっ!」
「なんか元気ね・・・」
優曇華があきれたような眼で見る。その視界の中には桐渡とリスティナに片方ずつ手をつかまれているてゐの姿があった
明智の眼から見たそれは
「なんか捕まった宇宙人みたいですねぇ」
「宇宙人?」
てゐが首を傾げる。なんでも、と明智が会話を切った
「宇宙人・・・」
その一言に優曇華が表情を沈めた
桜はそれをちらりと横目に見た
が、声はかけない。代わりにふぅ、とため息を吐く
「あ?ここ?」
「うん。ここ~」
桐渡とリスティナが建物を発見した。桐渡の問いにてゐが答える
永遠亭を桐渡とリスティナ、明智と桜が見つめた
「おい桜花・・・この永遠亭をどう思う?」
「すごく・・・大きいです」
「あんたら少し自重しなさい」
あきれたようにリスティナが言った。桜と明智が黙り込む
優曇華が二歩先に出た
「ちょっと待ってて下さい。師匠に話してくるから」
「待った、私も行く」
「てゐも・・・?・・・逃げる気じゃないでしょうね?」
ぶんぶん、とてゐが首を振り全力で否定する
「まぁいいけど・・・じゃぁ行ってくるから。ちょっと待ってて」
優曇華はそういい残しててゐをつれて永遠亭の中に入っていった
桐渡とリスティナ、明智と桜が取り残される
「さぁて、俺達も入りますかっと」
「あれ?でも優曇華が待ってって言ってたよ?桜さん」
「良いって桐渡。大体普通玄関で待たせるだろうに。こんな妖怪が出るとも分からん場所に客ほっぽりだしてくか普通」
桜が愚痴りながら永遠亭の中に入った
三人が取り残される
「・・・いこか」
「そだね」
「行きますかぁ・・・」
少し間を空けてから三人も永遠亭の中へと入っていった・・・



「と、言うわけで、マスターと桐さんを一晩預かって欲しいんですよ。お願いできませんか?」
三人は居間にいた
横に並んで座った彼女らの正面に、正座をした美しい女性が座っている
桜は壁に寄りかかってその光景を見ていた
「そう・・・話は大体分かったわ。いいわ、どうせ明日の宴会には行くつもりだったし、一晩くらいなら泊めてあげるわ」
「ありがとうございます。永琳さん」
「ありがとうございます」
桐渡とリスティナが二人揃って頭を下げる
永淋が微笑んだ
「良いのよ。最近姫も退屈していたみたいですし、話し相手が増えるのは良い事だわ」
(輝夜かぁ・・・外でなさそうだし、あんまり人と会話しないのかなぁ)
明智はそう思ったが口には出さなかった。出したらどうなるか分かったものではない
「じゃぁ早速お部屋に案内しましょうか」
と、永琳自ら立ち上がった
「?永琳、優曇華あたりに頼めば良いんじゃないのか?」
「今ちょうど姫を起こしに行かせたのよ。てゐと一緒に」
あきれたように永琳が返す
「輝夜さんってこんな時間まで寝てるんだ・・・」
ぽろりと桐渡の口から思ったことそのままが出た
永琳が頷く
「困ったものよ・・・少しは規則正しい生活もして欲しいわ」
「だってさ、あけっち」
「何で自分なんですかマスター」
「だってすらはちゃんとしてるし」
「あの人と比べないでくださいよ!」
ガーッ!と明智が叫ぶ、はいはいとリスティナのほうが流した
「良いかしら?案内したいんだけど・・・」
「あ、御免なさい」
「手間のかかる人がいると大変ね」
「まぁ一応クラブのマスターですし、ね」
そんな会話をしながら三人が消えていった
桜と明智が取り残される
「次どこ行く?」
「しらたま」
二人の姿もすぐに消えた



長い階段が目の前にあった
足が棒になりそうだった
「疲れた・・・」
「疲れました・・・」
二人の男は口をそろえて階段に座り込んだ
「尻さん、自分達のいるここって幻想郷ですよね」
「あぁ、しかも俺の嫁の家に続く階段だし」
ふぅ、と汗をぬぐい尻と呼ばれた男が空を仰いだ
そして座ったまま階段を見上げる
先の分からぬ横に広い階段がレックスの気分を落とした
「こうやって実際に上ってみるとなげぇ」
「ですねぇ」
先の見えない長い階段に浩二はため息をはいた
「これ降りた方が早いんじゃないですか?」
「最初はそうだったかもな。でも結構上ったし、それに・・・」
「それに?」
「この先では俺の嫁が待っている」
浩二は呆れたといった表情でため息を吐いた
ついていけないと思いつつ、結局ついていってる自分を不思議に思う
「・・・さて、上るか」
「はい、こうやって休んでても始まりませんしねぇ・・・」
また二人は階段を上り始めた



空が朱に染まり始めたころだった、彼らがその階段を上り終えたのは
「疲れたー」
「疲れたー」
二人揃って白玉楼の前で叫ぶ、その声に誰も反応するものは無かった
しばらく、沈黙が作られる
「・・・とりあえず戸でも叩いてみるか」
「ですね、いきなり斬りかかってくるかもしれませんけど」
休むことなく二人は白玉楼の門の前に立つ。その門は家とずいぶん距離がありそうで
「戸を叩いても意味無いじゃん」
レックスはそれに気づいた、浩二が声を張り上げる
「すいませーん!!誰かいらっしゃいませんかー!!?」
するとすぐに中からのアプローチがあった
ギィ、と扉が開く
銀髪のおかっぱが見えた
「あの」
扉を開けた者が声をかける
「もしかして、変態さんと罪袋さんですか?」
最悪のファーストコンタクトだった



「や、どうも」
明智は右手を上げて挨拶をする
速攻で二人が殴りかかった
「あだっ!」
「あけっちてめぇ・・・みょんになんて教えた?」
「変態と罪袋が来るからって」
「あけっち・・・いっぺん、死んでみる?」
二人が刀と短刀を構えた、明智は嫌な悪寒を感じる
話を変えよう、そう思った
「あ、ほら花蓮!ハジメマシテって!」
「え?」
きょとんとした表情で彼女が首を傾げる
彼女のその仕草に浩二とレックスが眼を奪われた
「誰?」
「えっと、花蓮です。よろしくお願いします」
「あぁ、俺はレックス、よろしく」
「自分は浩二です、よろしくお願いします」
三人は互いに握手を交わした、そこで先ほどのおかっぱの少女がやってくる
手にはお盆、お盆の上には人数分のお茶とお茶菓子
そして横には
「俺の嫁か」
「レックスさん少し自粛しようか」
ぽつりと呟いた彼に浩二が小さな声で言う
「あらあら?内緒話かしら?」
にっこりと笑って彼女・・・西行寺幽々子がちゃぶ台をはさんで彼らの向かいに座った
妖夢がお茶を置いていく、最後にお茶菓子をちゃぶ台の真ん中においてから、お盆を抱え幽々子の横に座った
早速幽々子がお茶菓子に手をつけた、ぱくりとそれを頬張る
「あの・・・どうぞ、食べてください」
妖夢がお茶菓子を勧めた。勧めないと客が食べないうちに幽々子が全部食べてしまうと思ったからだろうか
とりあえず全員で一つずつ食べる
「それで、この人数でここまで来て、いったい何の用かしら?」
幽々子が本題を切り出した
「求婚をしに」
すると早速レックスが変なことを言い出した
妖夢が衝撃を受けて固まる
「って言うのは冗談」
「自分達は実は外来人なんですよ、それで今晩の宿に困ってまして」
レックスの代わりに浩二がまともに説明を始める。
幽々子が頷いた
「それは・・・帰るまで泊めろってことかしら?帰るのは一体いつになるのかしら?」
「それは・・・」
浩二が言葉に詰まる、そこまでは答えることが出来ない。迷っているのだから
答えに困っている浩二を見かねた花蓮が助け舟を出した
「大丈夫です、帰る目処はついてます。だからこのお二人を今晩泊めて、明日の宴会につれて来てもらえませんか?」
「宴会にですか?」
妖夢が首を傾げる、花蓮が頷いた
「お願いします」
最後に浩二が言って頭を下げる。レックスもそれに習った
そして幽々子から出たのは
「いいわよ~」
あっさりとした承諾だった
「妖夢、後で部屋に案内してあげなさい。幽霊達にも二人分多く夕飯を作るように言って」
「分かりました」
ふぅ、と浩二とレックスが安堵して息を吐いた。やっと緊張を解いて視点を落とす
そこでふと、レックスが気づいた
(あ、菓子がもう一つしかない)
レックスはそう思うととっさに手を伸ばした。菓子をつまみ、口へと運ぼうとする
だがその手が冷たい手にパシッ、と掴れた
「え?あれ?」
最初は何が起こったか分からなかった
幽々子こちらの手をつかんできて、摘んだ菓子をそのままぱくりと食べる。
その時少し指を舐められた。その感触に気づいてから初めて菓子を横取りされたと気づいた
用が済んだ、とでも言うように幽々子は手を離した
もぐもぐとその菓子を味わう
「ん~、おいひぃ」
幸せそうに頬を押さえる彼女を見ながら、レックスは
(来て良かった)
と心の底から思う
しかし悦に浸れたのはそこまでだった
がちゃりと、ちゃきりという二つの音が聞こえる
のど元に短刀と長刀、こめかみに銃口が突きつけられていた
レックスの動きが止まる
「レックスさん・・・何貴方一人で良い思いしてるんですかねぇ」
「尻さん、抜け駆けはいけませんよ。自分なんてまだゆかりんに会ってすらないのに」
「・・・・・・」
明智、浩二、妖夢の三人分の殺気がレックスに圧しかかる
白玉楼中を巻き込んだ三対一の戦いが始まった瞬間だった



空が真っ赤に染まっていた
その館を名の如く染め上げていた
「はぁ~おっきいねぇ」
こすらが紅魔館を見上げながら呟いた
横にいるリリー、キスティも紅魔館を見上げている
そして後ろにいる二人も
「おい桜花・・・この紅魔館を見てくれ、こいつをどう思う?」
「すごく・・・大きいです・・・」
紅魔館を見上げながら馬鹿をやっていた
「みょん、いい加減そのネタ止めようよ」
「いいじゃないですか、別に」
「元ネタが元ネタだしねぇ・・・」
じろりとこすらが明智を睨む、明智に少しだけの罪悪感が芽生えた


桜と明智は数分前にこの二人に合流していた
彼女らの話によれば合流の一時間ほど前まで湖の馬鹿妖精達の遊びに付き合い、それからこの紅魔館を目指している途中で妖怪に襲われたらしい
その時に明智と桜は合流した・・・のだが
タイミングが悪かった
数の多い相手に丁度メテオとダブルクロススラッシュをぶち込む時に出てきた明智はもちろんそれに巻き込まれた
『これが私達の!』
『春への愛の花火!た~まや~』
『はるですよ~』
三人でポーズを取った時、周りに転がっていたのは無数の焼け焦げた妖怪と同じく消し炭になった一匹の明智だった
ちなみに、桜はその攻撃をひょいひょいとかい潜っていたので無傷だった。そのままこすらとキスティ、リリーの方に向かっていって挨拶をしていたのは倒れた明智もよく見ていた
そしてそのまま紅魔館を目指したのも


「酷いですよね」
「何が?」
明智がポツリと呟くがキスティは首を傾げる。罪悪感はこれっぽっちも無いらしい
もはや当たり前の受け答えなので明智もそれ以上何も言わなかった。言っても空しくなるだけである
門番の紅美鈴と桜が話している。客が来たことを知らせているようだ
美鈴が頷く
「分かりました。ちゃんとお嬢様と咲夜さんにも話しておいて下さいね」
「おう」
桜が四人を手招きする
四人はそこで始めて紅魔館の敷居をまたいだ
じわりとして気持ちの悪い感触がする
雰囲気だけでここが異常だと分かる
それに臆して明智は少し立ち止まった
だが他の三人はずんずんと歩いていく
その背に置いていかれぬ様、明智は早足でついていった


玄関で桜が叫んだ
「紅魔館よ!私は帰ってきた!」
「お前は何処の悪夢だ」



「つまり、この四人を今晩泊めて欲しいって事かしら?」
「あぁそうだレミリア」
偉そうに目の前の少女が言った、ピンク色の服に丸い帽子、背中には人でない事を証明する黒い翼
ただでさえ童顔なのに犬歯がより一層その顔を幼くしているが、身に纏う威厳は姿には不釣合いなほど感じ取れる
レミリアと呼ばれたその少女は、こすらとリリー、キスティを一瞥した
そして最後に明智を見る
「・・・若干名変なのがいるけど、まぁいいわ。最近退屈だったし」
「・・・すいません、あけっちなんかがいちゃって・・・」
「本当、ごめんなさい」
「ごめんなさぁい・・・」
本当に悪そうに三人・・・キスティにこすら、リリーは謝った。明智がショックで蹲る
レミリアは遠慮もせずにため息を吐いた
明智の心にさらに深い傷がつけられる
「それじゃ咲夜。部屋に案内してあげなさい。部屋割りは客に任せて頂戴」
「かしこまりました」
咲夜が小さく頭を下げた。咲夜というのはレミリアの横に立っている背の高いメイドだ
ここでのメイド長を勤めている完全で瀟洒で少し苦労性な女性
「じゃぁ、案内するからついてきて頂戴」
こすら達に対して砕けた口調で咲夜が言った。レミリアへの態度とは大違いだ
「待った」
背を向け部屋へと向かおうとした咲夜を止めたのは桜だった
咲夜が眉をひそめて振り返る
「いったい何かしら?桜」
「レミリア、こんなに人がいるんだ。今日は小規模なパーティでもしないか?」
問うた咲夜を無視して桜はレミリアに言う。レミリアは少し考え込んだ
「そうねぇ・・・それも良いわね。メイド達に音楽も奏でてもらいましょう。咲夜、分かるわね?」
「分かりました。今日のおゆはんはいつもよりも豪華なものにします」
おゆはん、と言う言い方に明智は違和感を覚えた
続けて桜が言う
「そうとなったらフランとパチュリーと美鈴も呼ばなければな。部屋の案内ついでに客も連れて会いに行こう。夕飯の時に初対面ってのもあれだし」
「分かったわ桜、貴方達もそれで良いかしら?」
桜の問いに咲夜が頷き、咲夜の問いにこすらとキスティ、リリーと明智が頷いた
「それじゃぁ部屋に案内するわ。部屋割りは・・・」
「そうだね。私ときすにゃにリリーが一緒の部屋でも十分かも」
「分かったわ。なら貴方たち三人とそこので部屋を分ければいいのね」
「そこの・・・」
「ついてきて、部屋に案内するわ」
咲夜が背を向けて歩き始めた
四人と桜がそれに続く。
レミリアも何故か、ついてきた



「お部屋はどうですか?」
こすらとキスティ、リリーにそう聞いたのは先ほどまでは桜だった女性だった
名を花蓮と言うらしい。こすらとキスティはそんな人物は知らなかった
「うん、中々いい感じです」
「広いしねぇ、でもベッドが一つしかないんだけど・・・」
「あはは、でもおっきいから皆で寝れますよね?」
皆で寝る、それはつまりリリーと一緒に寝るということで
「うん、問題ないね」
「うんうん、全然問題ない、春ですよ~」
「春ですよ~」
三人は頷き笑う。花蓮もつられて笑った
「咲夜さんがフランちゃんとパチュリーちゃんの所に案内したいから来てくださいって。美鈴さんも来てますよ。レミリアちゃんは何処かに行っちゃったみたいだけど・・・」
「うん、今行く」
「ちょっと待ってね」
ベッドに座っていたこすらは勢いをつけそこから降りる
キスティがリリーの手を取った、そのまま引っ張る
こすらは後ろからそれを見つめつつ、二人に続いた
「にしても、短時間で仲良くなったものですね」
すると扉の横で待っていた明智が言った。羨ましそうにこすらとキスティを見る
こすらがそんな彼に何かを言おうとしたが
「みなさーん。フランちゃんの部屋に行きますよー」
花蓮の声によって遮られた
「あ、はーい!今行きます花蓮さん。ほらいこ?リリー、すらさん」
二人はこくりと頷いて花蓮の元へ走っていった
明智が一人取り残される
やれやれと頭を抑え、明智もそれに続いた



「さて問題は」
咲夜がフランドールの部屋の扉の前に立っていった
「どうやって妹様を部屋から出すかね。ここは順当に死なない桜か花蓮に行ってもらうべきなんでしょうけど」
「俺パス、痛いのやだし」
「わ、私もちょっと・・・」
二人・・・花蓮と人魂が揃って首を振った
咲夜が頬に手を当てる
「じゃぁどうしましょうか」
桜・・・人魂が明智の方を向いた
「お前も死なないだろ。行ってこい」
「な!何でですか!それに死んでないと言うよりシソ食って復帰してるんですよ!」
「どっちでも良いよ、行け」
「そ、それを死なないって言うなら同じようにそこのすらさんときすさんだって!」
明智が苦し紛れに話を振ると、キスティとこすらが失望したような表情で明智を見た
「あけっちはか弱い乙女達に危ないことを押し付けるような男だったんだね・・・」
「・・・自分よりよっぽどか強いくせに何を言いますか」
「なんか言った?」
「イエナンデモ。とりあえず自分以外にもいける人はいるんですよ」
そういった明智を、咲夜が睨むように、こすらとキスティが失望したように、リリーと花蓮が泣きそうな表情で見つめた
「あーもう!じゃぁ公平にじゃんけんで決めましょうよ!じゃんけん!それなら文句無いでしょう!?」
明智が苦し紛れにそう言うと、なんと珍しい、全員が納得したように頷いた
「そだね、それなら公平だね」
あまりにすんなりと意見が通り、明智は少し硬直する
「じゃぁリリーちゃんと咲夜さんを抜いた私達でじゃんけんですね」
花蓮がそう言って一歩前に出た、キスティとこすらも前に出る
明智も前に出た
「じゃーんけ」
「ちょいまち」
明智が音頭を取ろうとしたが、こすらが止めた
「唯のじゃんけんじゃつまらないから、じゃんけんの前に何か言おうよ、グー出すよとかさ」
「なるほど、心理戦ですか。面白そうですね」
明智はそう言って両手を祈るように握る
その手を離し、右手を握りながら言った
「じゃぁ自分はパーを出しますよ、信じますか?」
ふむ、とキスティが頷いた
こすらも頷く
「じゃぁ私達は」
達?と明智が首を傾げると、二人が口をそろえた
『あけっちが嘘ついたらたら死刑にするから』
「えちょおま」
「じゃーんけーんぽんっ!」
うろたえた明智を無視して花蓮が音頭を取った。四人の手が出揃う
四人はしばらくじっとそれを見つめた
しばしの沈黙
やがてそれを明智が破った
「ですよねー」




「中から音が聞こえなくなった」
戸に耳を当てていたこすらが言った。
確かに先ほどから聞こえていた下品な悲鳴が聞こえなくなっている
「説得失敗?困ったね・・・」
「そうですねぇ・・・」
はふぅとこすらとキスティが向かい合ってため息を吐く
するとギィ、と重く扉が開いた
「妹様」
咲夜が彼女を呼ぶ
頭からつま先まで返り血で真っ赤に染まった少女が出てきた
その少女は全員を一瞥した後
一番近くのこすらに抱きついた
「あははは♪よろしくおねぇちゃん」
と、上目遣いに言った後こすらのお腹に顔を埋めてすりすりと頬擦りする
血がべっとりと服についた
こすらから離れた彼女はキスティにも同じ事をする
「妹様?」
咲夜がその行為に首を傾げると、花蓮の肩の上の人魂が言った
「俺が教えたんだ、出会い頭に抱きついて上目遣いによろしくと言うのが客への挨拶の方法ってな。」
「・・・桜、貴方はまた余計なことを」
咲夜の声が殺気を帯びた
だがキスティとこすらがまんざらでも無いのを見てその殺気もふっと消える
「あー、可愛い。ここは天国かなぁ」
キスティが幸せそうな笑顔でフランの頭を撫でた。
「天国に向かわせる悪魔ねぇ・・・まぁ桜花は地獄に堕ちただろうが」
桜がぽつりと呟いた
「ところで二人とも、服が血まみれだけれど」
咲夜がキスティとこすらに言った。二人が気づいたように視線を落とす
服がべっとりと血で赤く染まっていた
「あちゃ・・・」
「困ったね・・・こんなのじゃ歩けないや。他の服なんてないし」
二人がうーんとあごに手を当て考えると、花蓮が思いついたように言った
「そうだ、あれが使えるんじゃないですか?」
「あれ・・・?あぁ、あれね」
咲夜も花蓮の言いたい事に気づいて頷く、こすらとキスティが分からず首をかしげた
「ねぇ、あそぼぅ?」
するとキスティに続いて抱きついたリリーから離れたフランが唐突に言ってきた
「妹様、着替えがありますのでまた後で、それにもういっぱい遊んだでしょう?」
「んー・・・すぐに壊れちゃってつまんない」
「我慢しろフラン、俺の時になったらまた遊んでやる」
「やったぁ!」
ぴょん!とフランが跳ねる
とりあえず、と咲夜は前置きした
「三人も妹様も体を洗うことが先ね。ついて来て」
フランとリリーとお風呂
この上なく魅力的な言葉に二人は黙って頷いた。どうやってフランは体を洗うのかという好奇心も含めて二人の風呂には興味がある
そして咲夜についていこうとする

「ふぎゃぁぁぁぁぁ!」
幼い叫びが聞こえた、フランの部屋の中から
全員の動きが止まる
振り向くと同時、部屋から猫耳の少女が出てきた
「お燐!」
桜がその名を叫んだ
怯えた少女がこすらをの背にさっと隠れた
尻尾は逆立ち耳もピンと立っている。よほど怖いものを見たのだろうか
「あの、どうしたの?」
キスティが聞くとビッ!と部屋の中を指差した
「死体を運ぼうとしたら死体が動いた!殺そうとしても死なないし!」
死体?と首を傾げると、件の死体がぬぅ、と部屋から出てきた
「誰が死体か・・・」
「あけっち、どっからどう見ても死体だよ今」
その通りだったぐちゃぐちゃに血で汚れたそれは死体以外の何でもない
「来るな!あたいは死体以外は運ばないんだ!この死に損ない!」
「ひでぇ」
明智は体育座りをしてその場で泣き始めた
「・・・行きましょ」
そんな彼を置いて、他の全員が体を洗いに向かった



「あら咲夜、新しいメイドを雇ったのかしら?」
「違いますわ。彼女らはお客様、今晩泊まる予定ですわ」
後ろの四人・・・こすらにキスティ、リリーに何故かいるお燐が頷いた
全員体を洗った後に紅魔館に備え付けてあるメイド服に着替えていた
お燐こと火焔猫燐だけは最後まで抵抗していたのだが、花蓮にがしがしと体を現れていたのが妙に二人の頭に残っている
「そう、後なんで美鈴がここにいるのかしら?」
「本当は仕事中なんですけど、咲夜さんが代役を立ててくれたのでお休み中です」
美鈴が嬉しそうに言う
「代役?」


「イッキシ!」
明智がくしゃみをした
門の前で鼻をすする
「・・・着替えの時に覗かないようにって意味なんでしょうけど。なんで自分が門番を・・・」


「そう、まぁいいわ。私はパチュリー・ノーレッジ」
よろしく、と彼女は言わなかった
だが名乗っただけのそれでも自己紹介ではある。こすらとキスティも自己紹介で返した
「キスティです。よろしくお願いします」
「こすらです。よろしくお願いします」
「そう、よろしく」
パチュリーがいつものジト眼で言う。素なのだろうが少しばかり冷たく感じる。とってつけたように彼女がよろしくと言ったのも冷たさを感じる原因だろうか
「パチェ~あそぼぅ?」
フランが彼女に向かって笑いながら言った
パチュリーは首を振る
「フラン、ここは図書館だから遊べないの」
「む~」
ぷぅ、とフランが頬を膨らませた
咲夜がその動作に少し和みながら言う
「大体顔見せは済んだわね。おゆはんまではまだ時間があるから、それまでは好きに歩き回ってて良いわ。」
おゆはんの用意があるから、といって咲夜は何処かに行ってしまった
「んー、どうしてようか」
「そだね、どうしよう?」
そう言っているとフランもふらふらと何処かに行ってしまった
「そうだね、じゃぁリリーとお燐連れて紅魔館の中を見て回りたい」
「あ、賛成」
こすらの提案をすんなりとキスティが受け入れた
こすらがリリーの、キスティがお燐の手をそれぞれ掴む
「あ、じゃあ私が案内します!」
そんな四人の様子を見て美鈴が案内役に名乗りを上げた
パチュリーがジト眼でその面子を見つめる
やがて呟くように言った
「・・・私も行くわ」
「パチュリー様も、ですか?」
「貴方達だけじゃ不安だもの」
読みかけの本を一冊手にとってパチュリーは立ち上がる
立ち上がる動作が緩慢だが、これでも彼女にとっては普通の動きだ
「じゃぁ美鈴、案内お願いできる?」
「お任せくださいこすらさん!」
「待って!私も行く!」
叫んだ花蓮を含めた七人は元気良く図書館を飛び出した



「何で貴方がここにいるのかしら?」
「外来人が来たんだろ?そんな面白そうな話逃す手は無いぜ」
「全く・・・何処からそんな情報を持って来るんだか・・・」
そう言ってアリスが額を抑えた。魔理沙が首を傾げる
ソファに座った二人は互いに見つめあいながら話していた
壁に所狭しとかけられている額縁や時計がそれをじっと見ていた
「どうした?風邪か?」
「そんなんじゃないわよ、全く」
見当はずれな魔理沙の問いに軽く頭を抑えてしまうアリス
最近魔理沙と会ってからはため息を吐くか頭を抑えるかしかしていないように思える
「あのさ」
アリスの不機嫌そうな声に圧されながら、二人に挟まれるような位置に座っているとまとが小さく声を上げた
二人がとまとの方を見る
「どうしたの?お茶が美味しくなかったかしら?」
「そう言うわけじゃないけどさ」
そう言ってとまとは彼女の言葉を否定するように茶を飲んだ
ニコリとアリスが笑う
「こいつの紅茶は旨いだろ?紅茶の気分の時はここに来ると良いぜ」
「あんたいつも紅茶の気分だからうちに来てたのね」
「人形の気分の時も来るぜ」
「どうでも良いからあまり頻繁に来ないで」
「酷いな、引きこもりで友達のいないアリスのために来ているのに」
「取ってつけたような理由を言わないで。後友達なんて要らないわ。私には人形達がいれば十分」
「寂しいぜ・・・そんなのはな」
魔理沙が顔を伏せた、アリスが半眼でそれを見つめる
その厳しい眼のままとまとの方を向いた
「それで?なんだったかしら」
「えっと、邪魔じゃなかった?いきなりあけっちが来て泊めてとか言ってったけど」
とまとが控えめに言った。アリスが首を振った
「そんな事は無いわ。いつも道に迷った人間を泊めているし、それと同じようなものよ」
「実はアリスも寂しいんだぜ」
「黙ってなさい」
アリスが一蹴する。ははは、ととまとが苦笑いした
「それにしても珍しい名前ね。とまとなんて」
「旨そうだぜ」
「私は桃くらいしか食べたことが無いから分からないわ。とまとって何?衣玖」
「赤くて丸い野菜です、総領娘様」
「・・・今までずっと黙ってたけど、何であんた達もいるのよ」
衣玖と天子が揃って首をかしげた、何故そんなことを聞くのだろうと言う顔をしている
二人は目の前に出された紅茶を綺麗に飲み干していた、アリスの人形達が重そうにティーポットを抱えながらおかわりを注ぐ
「明日の宴会のために一足早く来たって、桜がいた時に言ったじゃない」
「それは分かったわ、問題は何故私の家にいるかって事」
「泊まる所が無かったからですわ」
さも当然と言うように衣玖が言った。アリスの表情がどんどん険しくなっていく
「私の家は宿じゃぁ無いんだけど」
「家だろうが宿だろうが、どっちにしろ同じだぜ」
「どこがよっ!」
バン!とアリスは机を叩いて立ち上がった
机の上のティーカップの中の紅茶が波を立てる
人形達が小さく震えていた
叫んだ彼女は少し息を荒げたが、みっともないことに気づいたのだろう、一つ息を吐いて静かに座った
「兎に角、私の家にこんな人数を泊めるような場所なんて」
「あら?それなら桜が部屋に大きなベッドを入れておいたから寝る場所の心配はするなといっていたんだけど?」
チッとアリスが舌打ちをした
どうやら三人には適当な理由をつけてお帰り願うつもりだったらしい
「いいじゃないか、どうせ明日の宴会までだ。それに皆で泊まるのも楽しいぜ」
「私は楽しくないの!」
「じゃぁ芸でもしましょうか。お願いね衣玖」
「私は芸など出来ませんよ、総領娘様」
「もう!五月蝿い!」
アリスが声を張り上げる
全員が眼を丸めた
アリスはツン、と顔を背ける
そのまま背を向けて台所へと向かった
「おい?何するつもりだ?」
「ご飯を作るのよ」
「おお!そいつは楽しみだぜ!」
「私の分だけに決まってるでしょ!馬鹿!」
バン!と音を立ててアリスは戸を閉めた
乱暴に閉められた戸をとまとと人形達が見つめる
「なんであんなに怒ってたのかしらね?」
「自分の生活が乱されたからですよ、総領娘様。彼女は魔法使いという種族柄一人でいることの方が多いようですから、これだけの人数でも一気に来られると混乱してしまったのだと思いますよ」
「あいつは人付き合いが苦手だからな。だからいっつも私から来てやらないといけないんだ」
面倒くさい性格ねぇ、そう言って天子はソファーに寝転ぶ
衣玖の膝を枕にして、天井を見つめた
「暇ねぇ・・・ねぇとまと。外の話を聞かせてくれない?」
「外の話?別段面白いことも無いけど」
「良いのよ。私にとっては面白いかもしれないじゃない。何でも良いから話しなさいよ」
お嬢様のような高慢ちきな態度で彼女はとまとに指図する
とまとは別に外の話をするのは構わなかったが
「その前に、と」
とまとが席を立つ、三人分の視線が集まった
「どうしたんだ?」
「手伝ってくる。やっぱり世話になってる身だからさ」
とまとはそう言ってアリスが消えた扉の中へと入っていった



「御免なさい、さっきはみっともなく声を張り上げちゃって」
「いや、俺達も急に押しかけて悪かったからさ。別に気にしてないよ」
とまとはジャガイモの皮を剥きながら言った、包丁を器用に使いするすると皮を剥いていく
「別に、手伝わなくても良いのに」
「宿代も払えない俺としてはこれくらいは当たり前だと思うけどね」
人形達がなべや食材を持って後ろを飛んでいる
その人形達に新たに指示を出して、アリスは小さく息を吐いた
「あいつらもそのくらい謙虚だと良いんだけどね」
「まぁ、人それぞれでしょ」
切ったジャガイモが水で満たされたなべに人形の手によって放り込まれる
「シチューか、これなら大人数で食べるにはもってこいだよな」
「私は・・・私の分を作ってただけで」
「それにしては量が多いさ、なんだかんだ言ってやっぱりみんなの分作る気あったんでしょ?」
「あいつらが何を言おうとも手を出すから多めに作ってただけよ」
アリスは頬を少し染めながら、俯いてパンの用意をし始めた
とまとはにんじんの皮を剥こうと包丁とにんじんを手に取り皮を剥き始めた

「お、いい匂いだな。今夜はシチューだぜ」
「うわっ!」
いきなり後ろから現れた魔理沙がとまとに抱きついた
そのまま鍋の中を見つめる。物欲しそうに眼が輝いていた
「魔理沙!料理してるんだから・・・とまと?どうしたの?」
魔理沙を叱ろうとしたアリスの視線がにんじんと包丁を置き、指を押さえているとまとに向けられた
とまとは表情をゆがめながら言う
「切った・・・」
「ええ!?」
「おわっ!」
魔理沙とアリスが同時に驚いた。とまとの抑えた手から血が流れる。どうやら結構深く切ってしまったらしい。切ると言うより抉ったという方が近いかもしれない
「大変、誰か救急箱を取ってきて!」
アリスが慌てて支持すると、出口に一番近い人形が飛んでいった
魔理沙がとまとの手を広げさせる
「ごめん、ちょっと調子に乗りすぎたぜ」
「いや、大丈夫大丈夫」
本人はそういったものの、痛いものは痛かった
そんな傷を黙ってみていられなくなったのか、魔理沙はその指をぺろりと舐める
「うわっ!?」
とまとが驚き仰け反ると、魔理沙がしょげた声で言った
「せめて消毒の代わりだぜ」
勝手にそういった彼女は鉄っぽいの味がする、と言って舌を出した。
それと同時に救急箱が届く
「とまと、手を出して。包帯を巻くから」
「分かった」
とまとが切った方の手を差し出すと、アリスは慣れない手つきで不器用に包帯を巻いた
包帯の白が赤黒く染まる
「ちょっと血が出てるけど、多分大丈夫だと思うわ」
「俺もそう思う。これくらいの怪我すぐに治る」
「そうだぜ」
「元凶がなに頷いてるのよ。貴方はちょっとは反省しなさい」
「失礼な、傷を消毒した件でちゃらだぜ」
「ただ舐めただけでしょう。何が消毒よ」
馬鹿馬鹿しい、とアリスが半眼で魔理沙を睨む
それから優しい表情になってとまとに言った
「その怪我じゃ料理は無理ね。もう出来上がりかけてるから、後は私と人形に任せて」
「悪いけどそうさせて貰うわ」
とまとはアリスの提案を素直に受け入れ、魔理沙を引っ張り先ほどのリビングへと戻った
「ん?」
とまとが戻ると衣玖が口元に人差し指を当てる、静かにしてくれということらしい
なぜ?と首をかしげたとまとの眼に、静かに眠っている天子の姿が映った



幻想郷の夜
様々な者達が交じり合った夜
様々な場所で、様々なことが行われる

山の神社―――

神社兼家の中の茶の間
「あはは、やっぱり大人数で酒を飲むと違うねぇ!」
小町が嬉しそうに杯を傾ける
やだもんがうんうんと頷いた
小梅はひざを枕にして寝入った諏訪子の頭を撫でながら酒を呷る
「やっぱり皆でお話しながらお酒を飲むのは楽しいですね」
同じく早苗に膝を枕にされているやだもんが自分で酒を注いだ
「ですネ。お酒もとってもいい物ばかりですしネ」
「私も諏訪子以外と呑んだのは久しぶりだからね。楽しくて仕方がないよ」
「あたいも仕事を忘れて酒が呑めるのが楽しくて仕方ないねぇ」
四人は他人のことも気にせずに笑う。
大きく楽しげな声が響く
今日の妖怪の山はいつもよりも愉快なのは確かだった

永遠亭

縁側に出たリスティナと桐渡、永琳に優曇華、輝夜
「あ!こらてゐ!またお団子を盗み食いして!」
月見用の団子が減っていることに気がついた優曇華はてゐを追い回した
てゐは優曇華を小ばかにしながら逃げ回る
「ほらほら、お客さんもいるんですから。あんまりはしゃいじゃ駄目よ?優曇華、てゐ」
やんわりと永琳が二人を注意したが、二人の耳には入っていない
リスティナが杯を傾け、夜空の満月を見上げながら言った
「月見のお団子なんて盗まれるの前提のものなんだし、別に良いのに」
「んぇ?ほうなの?」
桐渡がお団子をほお張りながら言う。ちゃんと飲み込みなさい。とリスティナが姉であるかのように注意した
「あら・・・それってどういう事かしら?」
後ろの輝夜がリスティナの話に食いつく
リスティナは桐渡と輝夜にお月見のお団子とは何なのか。ゆっくりと話し始めた

白玉楼

「振り返るとそこには、誰もいなかったと言う・・・」
レックスがろうそくを顔に近づけて低い声で言う
照らされた顔がとても怖い
「ひぃぃうぅぅぅぅう・・・」
妖夢が頭を抱えてぷるぷると震えていた
「あらぁ?妖夢はどうしたのかしら?」
「幽々子さまぁ・・・もう止めましょうよぉ・・・なんか桜が来た夜も怪談話をしてた気がしますよぅ・・・」
「そっか、怪談は苦手なんだよね、妖夢って」
浩二が納得したように頷く。
なお震える妖夢をからかう為に、レックスは一度ろうそくを置いてから
ドン!と大きな音を立てた
「ひぎゃぁ!」
妖夢はビクッ!と大きく震え、そのまま縋る様に隣に座る人物に抱きついた
「うわっと!尻さん、あんまりみょんは苛めないように」
レックスにそう言った浩二は一旦妖夢を引き剥がそうともしたのだが、あまりに震えて可哀想だったので、しばらくそのままにしてあげていた

紅魔館

「ほら・・・リリー、こぼしてるよ」
「んむぅ~むー」
スプーンを逆手に持って料理をすくい食べ散らかしているリリーを見かねて、隣に座っているこすらは彼女の口元を拭いてあげた
「しっかし、お燐はご飯を食べる時は猫姿なんだねぇ」
キスティが床で皿に盛られた料理にがっついているお燐の姿を見て言う
その光景を、咲夜は不思議そうに見ていた
「春告精に地獄の猫におゆはんをご馳走することになるとは思いませんでしたわ」
「外来人に至ってはもう慣れたけどね。うちに一匹いるし」
「それは俺のことかレミリア」
桜の問いに他に誰がいるのよ、とレミリアが返す
パチュリーはリリーとお燐、そしてこすらとキスティを見つめながら目の前の料理を少しずつ口に運ぶ
「私は騒がしいのは苦手だけれど、桜や魔理沙、美鈴よりは静かだから貴方達は良いわ」
「わ、私もうるさいですか・・・」
大口開けて料理をほお張っていた美鈴が少ししょげる
メイドの奏でる優雅な音楽が響いていた

マーガトロイド邸

「あぁ、今日のシチューは美味しかったぜ」
「褒めても何もでないわよ」
「少なくとも桃よりは美味しかったわ」
「総領娘様、それでは褒めてるのかどうか分かりませんわ。でも私も美味しかったと思いますよ」
「本当、久しぶりに良いものを腹いっぱい食えたよ」
五人はマーガトロイド邸の屋根の上に座っている
魔理沙が屋根に上ろうと言い出したのだ
星が見たい、と
「前にもこーりんの家で霊夢とこーりんと一緒に見たんだ、星。と言うか毎年見てるぜ」
「もしかしてあんたの魔法ってそれが元なの?」
天子の問いにこっくりと魔理沙が頷く
美しい満月と星、濃紺の空を見上げながら、アリスが呟く
「たまには、良いかも知れないわね」
「え?」
とまとにその言葉は良く聞こえなかった。なんでもないわとアリスはそっぽを向く
とまとは首をかしげながら空を見上げ、そして、それを見つけた
「あ、流れ星」



夕焼けに染まる博霊神社
いつかきっとの面々が幻想郷に迷い込んでから一日ほど経った後
賽銭箱の前で、二人の男が座っていた
「眠い・・・」
「まさか本当に一晩中寝ずに門番してるとは思わなかったぞ。正真正銘の馬鹿だなお前」
悪かったですね、と明智は返す
「にしても・・・少し早く来すぎたか」
「まぁ遅刻よりはマシですよ」
はぁ、と明智はため息を吐く。桜は気だるさを感じてぼこんと明智を叩いた
「痛っ!」
「宴会中にため息なんか吐くなよ。んなことされたら」
「せっかくの酒がまずくなる・・・ですよね。分かってるから今ここでため息はいてるんじゃないですか」
明智は朱色の空を見上げた
今夜の宴会も、もうすぐ始まる
「そうだ、桜。この弾倉を買いませんか?」
「弾倉?」
明智は思い出したように懐からそれを取り出した
あっちの世界では物理弾倉と呼ばれるものと魔力弾倉と呼ばれるものを、それぞれ一つずつ
「こっちの銃用の弾倉です。何かに使えると思いますよ」
「何でお前はいきなり商売をし始めるんだ。高値で売りつけるつもりか」
「いいえ・・・対価として望むのは・・・」
明智が何かを言う
桜が頷き、すんなりと商談が成立した



「お空、ご主人様を知らない?」
「もうちょっと後に来るって」
博霊神社の屋根の上、猫と烏が喋っている
こすらとキスティがリリーをはさんで賽銭箱の前に座っている
「楽しみねぇ、宴会」
「あけっちに次いでまだ私達しか来てないけどねぇ」
傾いた日が沈みかけている
咲夜やレミリアたちは神社の中で霊夢と何かを話しているらしい
先ほどまでいた明智と桜だったが、桜は霊夢のところへ、明智は何処かへ行ってしまった
「あ、あれってリスさんじゃない?」
キスティが階段を上ってきた人影に気づく
「あ、すら達だ」
「わーい!」
桐渡が喜んで手をぶんぶんと振る
「着きましたわね」
「「重い・・・」」
後ろから永琳と籠を担いだ優曇華とてゐが来た、階段を上りきって籠を下ろすと、中から輝夜が出てくる
「なんというか、それっぽい登場の仕方だね」
「俺もそう思うわ」
「うわっ!尻が沸いた!」
「私達もいますよ~」
リスティナ達に気を取られて気付かなかったが、やだもんと小梅に小町、妖怪の山の神社の住人、レックスと浩二、白玉楼の住人も神社についていた
「これで大体揃ったのかナ?」
「見たところとまとんがいないみたいだけど。後あけっちも」
本当だ、とやだもんは周りを見て言う
「あけっちはさっきまでいたよ、リスさん」
リスティナはそっか、と小さく頷いた。あまり心配はしていないらしい
「あ、とまとん達が来たみたい」
「あけっちも来たね・・・なんか色々連れて」
とまとが階段から手を振った、後ろに続くアリスと魔理沙が何か口論をしている
天子と衣玖はそれを眺めつつ、更に後ろに続く者たちを急かしているようだ
後から上ってきたのは慧音と妹紅だった。更に続いて文に椛の姿も見える
神社を遊び場にしている五人の妖精と妖怪に、嫌われ者のさとりも階段を上ってきた
最後に明智が、息を切らしつつ階段を上りきった
日が落ちようとしている
「皆集まったようね」
にゅっと現れたように賽銭箱のほうから声がした
驚いて見てみると後ろに紫、藍、橙の三人が立っている
それと同時に桜と紅魔館の面々に萃香、それに霊夢が神社から出てきた
「おお、集まった集まった」
「本当によくこんな人数集めたわよね・・・あんまり神社を汚して欲しくないんだけど」
ぶつくさと言う霊夢だったが、まんざらでもないらしい。証拠に少しだけ顔がほころんでいる
桜は神社の賽銭箱の横に立つと、声を張り上げた
「よっしゃぁ!呑むぞ!」
幻想郷の、日が落ちる



夜の宴会はすさまじいの一言だった
後から現れた騒霊三姉妹による演奏、その演奏に途中から歌も混じって大賑わい
様々なモノを補充する程度の能力を持つ桜がいるせいか、皆酒を飲むことに遠慮はしなかった
特に大酒呑みの面々はこれでもかというくらい呑んでいた。正確な量はよく分からないが、兎に角心配になるほど呑んでいた
酒の呑めない面々は仕方がない、桜に用意してもらっていたほかの飲み物を飲んで皆と話し込んでいた
レックスが芸をしてすべり、リスティナや浩二が電波な曲を歌い、レミリアとこすらが弾幕ごっこで遊び、文の取材にキスティが答え、やだもんと小梅が萃香たちと飲み比べをし、とまとと桐渡が優曇華をからかい、明智がさとりに心を読まれ
とても充実した一日だった
忙しい外には無かったこのひと時
各々がそれを十分に楽しみ
そして宴会はあっさりと終わりを告げてしまう



「さて、そろそろ帰る時間ね」
紫が扇子を口元に当てて言った。
もう日は天辺まで上っている。皆は少し博霊神社で眠らせてもらった後だった
宴会を終えた者達はぞろぞろと帰っていく。残されたのはいつかの面々に八雲紫、博霊霊夢だけだった
「それにしても紫、こんなに外から連れてくるなんて珍しいわね」
「そこの男との契約だもの」
霊夢の問いに紫はなんでもないように答える
そこの男・・・明智はまだ眠いのか半眼でぼけっと立っていた
「さぁ、もう良いでしょう?今回の旅はここまでよ」
「はい、いつかきっとを代表してお礼をさせてもらいます。ありがとうございました」
リスティナが深々と頭を下げた
紫がクスリと笑う
「良いのよ、私達も楽しかったわ。気が向いたらまた来なさい」
「はい!そうさせて貰います!」
浩二が嬉しそうに言った。
「紫、外来人を頻繁に出入りさせるのは駄目なんじゃないの?」
「そんな事は無いわよ」
霊夢の問いをあっさりと否定で返す紫
「現に神隠しとかしてるからね」
こすらがぽつりと呟いた。その声は紫には届かなかった
「それにしても見送りがこれだけっていうのも、少し寂しいですね」
「ですネ」
小梅とやだもんが少し残念そうに言う
レックスも頷いた
「仕方ないさ、俺の嫁含め幻想郷の人間や妖怪なんて皆気ままなんだし」
「そうね、よく分かっているじゃない」
霊夢が何故か誇らしげに言う、桐渡ととまとが首をかしげた
ぱんぱん、と紫が手を叩く
「これくらいにしましょう。そろそろ戻る時間よ」
「待って下さい」
紫の言葉を明智がさえぎる
明智は懐から財布を取り出して、いつかの面々に幻想郷のお金を少しずつ配った
「あけっち?これ何?」
「せっかく博霊神社に来たんです・・・御参りしていきましょうよ」
「おぉ、珍しく気が利くじゃん、あけっち」
はいどうも、と明智はぼんやりと返す
いつかの面々は順番に賽銭箱にお賽銭を投げ込み、それぞれ願いを込めて手を合わせた
全員がそれを終えると、とたんに霊夢の機嫌が良くなる
「また来てね」
「げんきんねぇ、本当」
こすらが呆れていった
紫が微笑む
「さぁ、帰る時間ね。すぐに着くから、ちゃんと着地なさい」
「はい、ありがとうございました」
小梅とリスティナがそう言って軽く頭を下げ、皆でそれに続いて頭を下げた
直後、世界が変わる



それから、三日後の話
『皆さん!集まってください!皆さん!早く!今すぐ!』
無線からぎゃんぎゃんと喚く声が聞こえた
また明智か、そう思った面々は、それでも家に集まる
家に着いた彼女らが見たのは、新聞の束だった
「あけっち、なにそれ?」
「新聞ですよ!文々。新聞!」
そう言って明智は全員にそれを配った
眼を通してみると、そこにはあの宴会の様子が書かれていた
「スキマが送ってくれたみたいなんです」
「へぇ・・・なんか嬉しいね。こういうの」
皆、嬉しそうにその新聞を読んでいた
明智は一旦全員が読み終わるのを待って、もう一つ、彼らからの贈り物を出す
「後これを、これは多分皆さん宛です」
明智が出したのは色紙だった
リスティナがそれを受け取ると、皆でそれを覗き込む
寄せ書きだった、所狭しと文字が並んでいる
一枚で収まらなかったのか、数枚の色紙が並んでいた
「あ!これ俺の嫁が書いたんじゃないか?」
「優曇華も書いてくれてるね」
「てゐもだ、やったぁ」
「小町さんも書いてくれてます、映姫さんも」
「早苗さんも諏訪子ちゃんも神奈子さんもですネ。皆元気みたいですヨ」
「リリー・・・これなんて書いてるんだろう」
「お燐や咲夜さんのもあるよ。文に霊夢もだ」
「アリスのが魔理沙の字とかぶさってて読み難いな・・・」
皆で楽しそうに色紙を読んでいるのを横目に、明智は思った
また行けたらな、と












「ところで、新聞にも色紙にもあけっちの事だけ何も書いてないんだけど」
「だから貴方達宛てだって言ったんですよ!畜生!」
「あけっち・・・泣ける・・・」
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